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仙台地方裁判所 平成8年(行ウ)8号 判決 1998年4月14日

原告

仙台市民オンブズマン

右代表者

増田隆男

右訴訟代理人弁護士

藤田紀子

佐川房子

高橋輝雄

山田忠行

小野寺信一

松澤陽明

吉岡和弘

半沢力

内田正之

齋藤拓生

坂野智憲

松下明夫

土井浩之

十河弘

被告

宮城県知事

浅野史郎

右訴訟代理人弁護士

松坂英明

氏家和男

村田知彦

被告指定代理人

深田健

外五名

主文

一  被告が原告に対し、平成六年一一月三〇日付でした別紙文書目録①(ニ)記載の文書を開示しない旨の処分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して平成六年一一月三〇日付けでなした別紙文書目録①(ニ)記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。

2  被告が原告に対して平成八年七月五日付けでなした別紙文書目録②記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。

3  被告が原告に対して平成八年七月五日付けでなした別紙文書目録③記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。

4  被告が原告に対して平成八年七月八日付けでなした別紙文書目録④記載の文書(但し、「支出命令決議書及び支出負担行為兼支出命令決議書」及び「返納決議書」を除く。)を開示しないとの処分を取り消す。

5  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、平成五年六月二四日、地方行政の不正を監視・是認すること等を目的として結成された権利能力なき社団である。

(二) 被告は、宮城県の情報公開条例(平成二年宮城県条例第一八号。以下「県条例」という。)二条一項の実施機関としての宮城県知事である。

2  本件処分の存在

(一) 原告は、被告に対し、平成六年一一月一日、県条例五条一項に基づき、別紙文書目録①の(イ)ないし(ニ)記載の文書の開示を請求したところ、被告は、平成六年一一月三〇日、右各文書は県条例九条二号、三号及び七号に該当するとの理由で、非開示とする処分をしたが、その後、同目録(イ)ないし(ハ)の文書についてはこれを開示した(以下、非開示のまま残った同目録(ニ)の文書を「①の文書」といい、その非開示処分を「①の処分」という。)。

(二) 原告は、被告に対し、平成八年六月二四日、県条例五条一項に基づき、別紙文書目録②記載の文書(以下「②の文書」という。)の開示を請求したところ、被告は、平成八年七月五日、県条例二条二項が規定する公文書としては、②の文書に該当する文書が存在しないことを理由として、②の文書を開示しないとの処分をした(以下「②の処分」という。)。

(三) 原告は、被告に対し、平成八年六月二四日、県条例五条一項に基づき、別紙文書目録③記載の文書(以下「③の文書」という。)の開示を請求したところ、被告は、平成八年七月五日、県条例二条二項が規定する公文書としては、③の文書に該当する文書が存在しないことを理由として、③の文書を開示しないとの処分をした(以下「③の処分」という。)。

(四) 原告は、被告に対し、平成八年六月二四日、県条例五条一項に基づき、別紙文書目録④記載の文書の開示を請求したところ、被告は、平成八年七月八日、右文書は、県条例九条七号に該当するとの理由で、非開示とする処分をしたが、その後、「支出命令決議書及び支出負担行為兼支出命令決議書」及び「返納決議書」については、これを開示した(以下、非開示のまま残った同目録の文書を「④の文書」といい、その非開示処分を「④の処分」という。)。

3  本件各処分の違法性

①ないし④の処分(以下「本件各処分」という。)は、①ないし④の文書につき、いずれも県条例所定の非開示事由が存在しないにもかかわらず、これらを非開示とした処分であって、違法なものである。

4  よって、原告は、本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2(一)はいずれも認める。

2  請求原因2(二)ないし(四)は、非開示の処分を行った事実を否認し、その余は認める。被告は、実施機関が②ないし④の文書を管理していないことを理由として原告の請求を受理しない処分を行ったものであり、非開示処分を行ったものでない。

3  請求原因3は争う。

三  被告の主張

1  ①の処分の適法性

①の文書は、県条例九条七号に規定する非開示事由に該当するから、これを非開示とした①の処分は適法である。

県条例九条七号は、開示しないことができる公文書として、「県の機関又は国等の機関が行う検査、監査、取締り、争訟、交渉、渉外、入札、試験その他の事務事業に関する情報であって、当該事務事業の性質上、公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれのあるもの」と規定するところ、以下の事情に鑑みれば、行幸啓等に関する情報を開示した場合、今後の行幸啓等を実現していく上で著しい支障が生ずるおそれがあるから、①の文書を非開示とした①の処分は適法である。すなわち、本件で、非開示とされた行幸啓関係の食糧費は、知事招宴などに支出した経費や、宮内庁職員・皇宮警察官等による行程の事前調査の調整のための懇談会費用などであるところ、これらを開示した場合、以下のような悪影響が生ずる。

(一) 県の要請でご来県いただいた皇族の招宴に掛かった費用の詳細を公開することになると、招宴の金額や内容について議論を招き、皇室への批判につながることが危惧される。なお、皇室に関してはその性格から一般国民の関心を集めやすく、従来の報道のされかたから見ても、常に関心の対象となっており、興味本位に捉えられているものも見受けられるのであって、右招宴の金額等が開示された場合、恰好のニュースソースとなり、これらが紙面、テレビの画面を賑わすことになる。

(二) わが国では、皇室は伝統的に敬愛、尊敬の対象とされており、皇室に関する情報は、これらを傷つけないように慎重に取り扱われており、少しの批判をも浴びることのないように細心の注意が払われている。また、国民の多くも皇室に関する情報を全て公開する事を望んでいる状況にはない。このような現状の中で、宮城県が皇室に関する情報を公開することにより、万一にも批判を招くような事態になれば、皇室の権威を傷つけかねないとともに、国民の反感を買うことにもなる。

(三) 宮城県が招宴などの内容等を開示する事により、その金額等が全国的な基準となり、今後各県独自の裁量で行なう招宴等の運営が制限されてしまうことが予想されるなど、他県が行う同様の行幸啓に関する事業に及ぼす影響が大きい。

(四) 行幸啓に関しては、概ね二ないし三か月前に、行程、宿泊、警備計画等を確認するため、宮内庁職員・皇宮警察官等が来県し、県秘書課、県警本部の警備関係者等を加え、行幸啓当日の最終的な調整を行なうが、右事前調査を行なうこと自体警備上の観点から公にすべきでない性格のものであるから、これに付随する懇談会等についても公開すべきではない。

(五) 行幸啓に係る料理等については、その提供業者の企業努力によって、相対的に安価で提供してもらっており、この情報が開示されれば、それをもとに皇族以外の人が、同じ金額で同じ料理を提供するよう要求した場合、その対応に苦慮させられることとなって、提供業者に対し営業上の不利益を与えることとなる。

2  ②ないし④の処分の適法性

(一) 文書開示の請求を行うには、開示の対象とされる文書が県条例二条二項にいう公文書であることを要するところ、②ないし④の文書は、右公文書に該当しないから、これらを不受理とした処分は適法である。すなわち、同条項によれば、開示の対象となる公文書とは

(ア) 実施機関の職員が職務上作成し、または取得した文書等であること

(イ) 決裁、供覧等の事務手続が終了したものであること

(ウ) 実施機関において管理しているものであること

の三要件を全て満たす文書等をいうところ、(ア)の「職務上作成し、または取得した」とは、実施機関の職員が職務の遂行者としての公的立場において作成し、または取得したという趣旨であり、右「職務上」とは、実施機関の職員が、法律、命令、条例、規則、規程、通達等により与えられた任務または権限をその範囲において処理することを指し、「実施機関において管理しているもの」とは、実施機関がそれぞれ定めている文書規程等の規定するところにより保管し、又は保存されているものをいうが、以下に述べるとおり、②ないし④の文書は、これに該当しない。

(二) (ア)の要件について

(1) 県条例二条一項は、同条例の実施機関を、知事、公営企業管理者、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員会、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会及び内水面漁場管理委員会とする旨規定し、議会及び公安委員会を実施機関から除外している。なお、実施機関をどの範囲のものにすべきかは、基本的に立法政策の問題であるが、その前提として、実施機関をどのような性格のものとして位置づけるかについては、公文書開示を行う一連の手続、請求書の受理、開示・非開示の決定、不服申立て及び訴訟等に対し、組織的に対応できる機関をもって実施機関とすべきであるとされている。

(2) 県議会が県条例二条一項の実施機関から除かれたのは、議会が、執行機関から独立した議決機関として位置付けられ、両者が分立しつつ、それぞれ機能を分担して、相互に均衡・抑制しつつ運営されることを予定していること、情報公開条例は、普通地方公共団体の行政事務の処理に関する事項に係る条例であり、その提案権は原則として議員と長の双方に属するが、議会がその実施機関に加わるかどうかについては、執行機関から独立した議決機関としての議会の意思が尊重されるべきことなどによる。また県公安委員会が、実施機関から除かれた理由は、県公安委員会は、執行機関である都道府県知事から独立しその指揮命令を受けないこと、その政治的中立性を維持する必要性が高いこと、担当する警察事務の特殊性、一都道府県の区域内にとどまらず国や他都道府県との密接な連携のもとに広域的に処理される事務が多いことなどによる。なお、警察事務の特殊性からすれば、公安委員会が保有する情報のほとんどが個人情報や犯罪の予防、捜査情報であり、仮に公安委員会が実施機関となった場合においても、公開できる情報は甚だ少ないと考えられることもその背景にある。

(3) ②ないし④の文書は、県議会あるいは県公安委員会の予算の執行にかかる文書であり、県の予算の執行権は被告に専属するものであるが、被告は県議会または県公安委員会に関する歳出予算の執行事務については、県議会事務局長あるいは県警本部長に、歳出予算の執行に関することを補助執行(地方自治法一八〇条の二)させている。具体的には、右事務に関し、県議会事務局の職員あるいは公安委員会管理下の警察本部の職員を知事部局の職員に併任させ、同職員が、同事務を行うという取扱いをしている。補助執行の制度は、同じ行政機関内部の補助執行とは異なり、議会や公安委員会など県知事から組織上独立した機関の予算の執行については、知事部局の職員に併任させることによって、議会の支出も公安委員会の支出も、県知事がしたのと同一の行政法上の効果を発生させ、予算の統一性を確保するという行政上の目的を達成するための各機関相互の協力関係の法的手段であり、補助執行によって、事務局あるいは県警本部の職員が知事部局の職員となるわけではない。

(4) したがって、②ないし④の文書は、実施機関が作成するものではないから、(ア)の要件を充足しないものである。

(三) (イ)の要件について

②及び④の文書は、県議会が作成し保管するものであり、③の文書は、県公安委員会が作成し保管するものであるところ、県議会及び県公安委員会は、実施機関ではなく、かつ、(イ)にいう「決裁、供覧等の事務手続」とは、実施機関の行う事務手続と解されているから、②ないし④の文書は、(イ)の要件をも満たさない文書である。なお、本件各文書は、県議会あるいは県警本部の手続上は、決裁、供覧等を終了している。

(四) (ウ)の要件について

②及び④の文書の管理については、県議会事務局処務規程(昭和五一年宮城県議会訓令甲第一号、以下「処務規程」という。)があり、③の文書については、県警察文書取扱規程(平成六年本部訓令第三号、以下「文書取扱規程」という。)があり、右各規程の中に文書の保管、保存等についての規程が置かれている。そして、これらの文書の保管、保存について県議会あるいは県警本部は被告の指揮監督を受けるようなことは全くなく、保存年限も各機関が独自に定めており、県議会あるいは県警本部が独自の権限に基づいてこれら文書を管理していることは明らかである。したがって、②ないし④の文書の管理は、県議会の事務局職員あるいは県警本部職員が行っているものであるから、(ウ)の要件を満たさないというべきである。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張1(①の処分の適法性)は争う。

県条例九条七号は、いわゆる行政運営情報について、一定の場合に開示義務を免除するものであるが、国民主権原理のもとでは、公務員の選定罷免の権利は国民固有の権利であり、すべての公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければならないのであるから、行政機関の保有する情報は、公共の福祉を妨げる事情がない限り、国民に公開されることが当然であり、そのため、県条例九条七号は「事務事業の目的が達成できなくなる」場合と「事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずる」場合に限って、開示義務を免除したのである。したがって、右「事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがある」場合とは、当該事務事業又は同種の将来の事務事業に具体的な支障が生じるおそれが客観的に懸念される場合に限られると解すべきであるところ、以下のとおり、皇族等の行幸啓等に要する費用の開示によって、皇室との懇談等の行政事務事業の遂行に支障が生じるとは考えられない。

(一) 公金による知事招宴の金額や内容を主権者であり、納税者でもある県民が知り、議論することは、国民主権の民主主義社会では当然であって、それがどうして皇室批判につながるのか、理解し難い。皇族の接遇等についても、国民の様々な意見の自由な表明の中から多数意見が形成され、あるべき接遇等を国民が決めるべきであり、それについて批判があれば、被告は、これを謙虚に受けとめ、改めるべきである。なお、実際上、我が国では、マスコミが皇室に対して礼を失するような内容の報道をするとは到底考えられない。

(二) 本件で開示が求められる情報は、「皇室に関する情報」あるいは「皇室の権威にかかわる情報」ではなく、公金の使途に関する情報に過ぎない。行幸啓に関する食糧費支出が、いい加減であれば、当然県民の批判を招くが、それはご来県された皇族に対する批判ではないのであるから、公金の使途に関する情報の開示によって皇室の権威が傷つけられるという事態が招来されるとは、考えられない。

(三) 本件の懇談の金額がその後の全国的な基準となるとは限らないし、右基準となったとしても、それが適切であれば、他県が独自の判断で宮城県の基準を採用するのであるから、何ら問題はない。

(四) 本件で開示が求められているのは、警備内容に関する情報ではなく、懇談会費用ないし懇談の存在に関する情報であり、これを開示することで、警備上支障が生じる理由は考えられない。しかも、既に終わった行幸啓の際の事前打ち合わせに関する情報の開示で、何時行われる行幸啓の警備に支障が出るというのかも不明である。

(五) 被告は、行幸啓等に要する費用の開示によって、皇族以外の人が、同じ金額で同じ料理を提供するよう要求した場合に、提供事業者が困る旨主張するが、右は、一般県民の健全な社会常識に照らしておよそあり得ない事態である。

2  被告の主張2(②ないし④の処分の適法性)は争う。

(一) (ア)の要件について

②ないし④の文書は、以下のとおり、予算執行に関する文書であり、予算執行権限を有する被告が作成あるいは取得した文書であるから、(ア)の要件を充足する。

(1) 予算調製・執行権限が知事に専属する理由は、これによって、知事に予算調整・執行の責任があることを明示するところにあるところ、被告が、県知事から組織上独立した機関の予算について補助執行させている趣旨は、これらの機関の自主性、独立性を損なわない限度において行政の簡素化、能率化を意図したものであり、この場合でも、予算執行権限は、名実ともに、知事に専属することは明らかである。

(2) ②の文書のうち、旅行命令(依頼)票と支出負担行為兼旅費支出命令決議書は、支出命令権者である知事名義で、その補助執行者たる知事の職員に併任された県議会事務局長が作成する文書であり、復命書は、予算の執行に関連する文書として、併任された県議会事務局職員が取得する文書であるから、いずれも県条例にいう公文書である。また、旅費受領代理人普通預金通帳は、議員・職員の個人的・私的な通帳ではなく、財務規則所定の方法による旅費支出(請求・支払い・受領)に不可欠な公用文書であり、しかも、旅行命令に関する文書ではなく、旅費支出(出納)に関する文書であるから、知事の職員が取得する文書であるので、公文書に該当する。

(3) ③の文書のうち、旅行命令(依頼)票と支出負担行為兼旅費支出命令決議書は、支出命令事務につき、支出命令権者である被告名義で、補助執行者である県警本部長が作成する文書である。復命書も、予算執行に関連する文書として、併任された県警本部職員が取得する文書であるから、いずれも県条例にいう公文書である。また、旅費受領代理人普通預金通帳は、職員の個人的・私的な通帳ではなく、財務規則所定の方法による旅費支出(請求・支払い・受領)に不可欠な公用文書であり、しかも、旅行命令に関する文書ではなく、旅費支出(出納)に関する文書であるから、知事の職員が取得する文書と理解されるので、公文書に該当する。

(4) 議会各派に対する県政調査費は、議会事務局長の支出命令に基づき、議会事務局総務課長補佐が、法令及び予算適合性並びに債務の確定を審査のうえ、支出執行するものであるが、④の文書のうち、被告に提出する会派所属議員名簿を添えた県政調査費交付申請書と経理責任者の届出書、収支決算書は、被告の権限に属する県政調査費(補助金)の交付決定とその支出(予算執行)に関する書類である。これらは、被告の職員に併任され、被告の権限事務の補助執行をする議会事務局長が取得する文書であり、県条例にいう公文書である。

(二) (イ)の要件について

実施機関の問題は別として、②ないし④の文書に付き、決裁、供覧等の事務手続が終了している事実は争いがない。

(三) (ウ)の要件について

被告は、②ないし④の文書の管理については、県議会や県警本部が規程を定めており、その規程に基づいて保管・保存されているから、実施機関である被告が管理していることにはならない旨主張するが、規程があるから、管理権限があるのではなく、権限ある事項に関してのみ規則、規程の制定ができるのであり、県議会あるいは県警本部の右各文書の保管権限の有無は、当該各文書の記載内容及びこれらに係わる事務の性質から、論証すべきである。県議会及び県警本部の予算執行に関する事務は、県議会事務局及び県警本部の職員が、知事部局の職員に併任された立場において被告を補助執行して処理するものであり、右予算執行に関する文書は、実施機関である知事部局の職員が作成・取得した文書というべきであるから、被告の指揮監督権が及ばないとする合理的理由はない。したがって、議会及び警察本部の予算執行に関する文書の管理についても、実施機関としての知事の指揮監督権が及ぶと解すべきである。

理由

一  争いのない事実

請求原因1(当事者)の(一)、(二)の事実、同2(本件処分の存在)のうち、原告が、被告に対し、①ないし④の文書につきそれぞれ開示請求をし、被告がいずれもこれに応じなかったこと、①の文書を開示しない処分は、県条例九条七号に該当することを理由とする県条例七条の公文書の開示をしない旨の決定(以下「非開示決定」という。)であることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  ①の処分の適法性について

1  ①の文書とは、具体的には、行幸啓等に際し、知事招宴等に支出した経費や、宮内庁職員・皇宮警察官等による行程の事前調査の調整のための懇談会費用に関する書類であると認められる(弁論の全趣旨)。

2  県条例九条七号は、公文書のうち、「県の機関又は国等の機関が行なう検査、監査、取締り、争訟、交渉、渉外、入札、試験その他の事務事業に関する情報であって、当該事務事業の性質上、公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれのあるもの」については、開示をしないことができると規定するところ、被告は、①の文書を開示することは、今後の行幸啓の執行に支障が生ずるおそれがあると主張し、その事情として、(一) 知事招宴の金額や内容について議論を招き、皇室への批判につながるおそれがあるうえ、非開示としている内容が紙面、テレビの画面を賑わすことになること、(二) 宮城県が皇室に関する情報を公開することにより、皇室に対する批判を招くような事態になれば、皇室の権威を傷つけかねないとともに、国民の反感を買うことにもなること、(三) 宮城県の招宴の金額等がその後の全国的な基準となり、今後他県が行なう招宴等の運営が制限されてしまうことが予想されるなど、同様の行幸啓等に関する事業に及ぼす影響が大きいこと、(四) 行幸啓に関しては、事前に、宮内庁職員・皇宮警察官等が来県して、県秘書課、県警本部の警備関係者等と、行幸啓当日の最終的な調整を行なうが、この事前調査の実施自体警備上の観点から公にすべきでない性格のものであるから、これに付随する懇談会等についても公開すべきでないこと、(五) 行幸啓に係る料理等については、その提供者の企業努力によって、相対的に安価で提供されていることから、この情報が開示されれば、皇族以外の人への対応に苦慮させることとなり、提供業者に営業上の不利益を与えることを挙げている。

3  しかし、行幸啓は、国事行為ではないが、憲法上皇室に認められた公的な性格に基く行為であり、閣議の決定に基き宮内庁職員により宮廷費をもって処理される国家事務であると解されるから、これを迎える側にとっても公の事務である。したがって、これに関する情報を公開することによって、その接遇のあり方等について、一般の国民から何らかの批判等が出されることがあったとしても、それは公的な事柄に関する主権者の意見として十分尊重されなければならず、これを封ずべき理由はない。また、これら接遇の具体的内容については、皇室自体が決することではなく、それを迎える側が決めることなのであるから、それらを公にしたからといって、これによって皇室の権威が傷つくとは思われない。なお、これらの情報を開示した場合、それらがマスコミによって興味本位に取り上げられる可能性が全くないとはいえないが、それは報道機関の守るべき倫理の問題であるし、実際上、マスコミが皇室に対し、礼を失するような報道に及ぶ可能性も乏しいと考えられる。また、宮城県の行う招宴等の金額を開示したからといって、それが直ちに全国的な基準となるとか、それによって、今後、各県が行う招宴等の金額が制限されてしまうというような事態は必ずしも考えにくい。さらに、前記(四)の点についても、懇談会等の情報を事後に公開することにより、事前調査の事実が明らかになったからといって、行幸啓に関する今後の警備に影響が生じるおそれがあるとは認め難いし、前記(五)の点について被告が主張するような事柄は、その提供業者が経営上の合理的な判断に基づき、自由に決すれば足りることであり、いずれも今後の行幸啓に関する支障と結びつくものではない。

4  したがって、前記被告主張の諸点も①の文書が県条例九条七号に該当することの根拠となるものではないし、他に、右文書が同条号に該当することを窺わせるような事情も見当たらないから、①の処分は、県条例所定の非開示事由がないのにこれがあるとしてされた違法なものといわざるを得ない。

三  ②ないし④の処分の適法性について

1  ②ないし④の処分について、原告は、非開示決定であると主張するのに対し、被告は、②ないし④の文書を管理していないことを理由とする開示請求の不受理処分であると主張するところ、県条例は、七条一項において、実施機関は、公文書の開示の請求があったときは、請求書を受理した日から起算して一五日以内に、公文書の開示をするかどうかの決定をしなければならないと規定し、受理という行為に一定の法的効果を結び付けており、これによれば、開示あるいは非開示の決定と別個に、受理あるいは不受理という行政処分が存在すると観念する余地がないでもない。被告は、②及び③の文書の開示請求に対し、いずれも「公文書の開示請求書の不受理について」という表題で、右各文書を受理することができない旨の通知をしているところ(乙一四、一五)、これは右のような観点に基づくものと考えられる。

しかし、他方、県条例六条は、公文書の開示請求の方法として、請求者の氏名及び住所等、五条一項の請求権者の要件を判断しうる事項と、公文書の内容及び実施機関の定める事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならないとしているだけであり、右の実施機関の定める事項については明らかではないから、請求の対象である公文書の存在が請求の要件であるとは必ずしも断定し難いのであって、その点は、開示・非開示の決定にあたり、その前提として判断されるべき事項とみることも十分可能である。このようにみると、②ないし④の処分は、いずれもその開示対象が県条例所定の公文書としては存在しないことを理由として、これを非開示とする趣旨の処分とみることができるので、ひとまず、右のような見地から、右各処分の適法性について検討する。

2  証拠(乙五の1ないし4、九ないし一一の各1、2、一七の1、2、一八ないし二〇)及び弁論の全趣旨によれば、県議会(議員及び職員)の出張事務、県警本部総務課職員の出張事務及び県議会各会派に対する県政調査費交付事務につき、以下の事実が認められる。

(一)  県議会(議員及び職員)の出張に係る事務について

(1) 議員及び職員の出張(以下「旅行」ともいう。)については、旅行命令権者(所属長)が、旅行命令内容を意思決定する。事務局員の出張についての権限は、議長に属するが、処務規程により、事務局長あるいは当該職員の属する課の課長が、議長から委任を受け、旅行命令権者となっている。

(2) (1)の意思決定に基づき、庶務担当者が、旅行命令(依頼)票を作成し、旅行命令権者は、同票の内容を確認してこれを決裁し、出張者は、同票により旅行内容を確認し、同票に各認印を押印する。

(3) 旅費の請求は、出張者から旅費請求につき委任を受けた旅費請求代理人が出張者に代わって行う。具体的には、事務局総務課長が同条に基づき、総務課経理係長を代理人に指定し、同係長は、出張者の委任を受け、旅費請求代理人となり、旅行命令(依頼)票に設けられている請求代理人請求印欄の押印して請求する。

(4) (3)の請求に対する支出命令は、庶務担当者が、旅行命令(依頼)票の内容に基づき、支出負担行為兼旅費支出命令決議書を作成したうえで、支出命令権者が、決裁して行う。支出命令は、本来、被告たる知事の職務権限であるが、県議会においては、事務局の局長、次長、総務課長、総務課長補佐、総務課の各係長、及び総務課職員を宮城県事務吏員その他その者のある職に相当する知事部局の職に併任したうえで(議会にかかる財務事務の補佐執行に関する規程二条)、事務局長に、議会の所掌にかかる事項に関する配当を受けた歳出予算の執行に関することにかかる事務を補助執行させる(同規程三条)ことによって、議会が配当を受けた歳出予算の執行、支出命令を行っている。具体的には、議会事務局総務課長が、支出命令を決裁している。

(5) 支出命令に基づき出納執行命令の決裁がなされる。県議会においては、事務局総務課長補佐が、旅費出納員として、旅行命令(依頼)票と支出負担行為兼旅費支出命令決議書の内容を審査し、支出負担行為兼旅費支出命令決議書に出納執行命令の決済をしている(前記規程二条、三条、出納事務の委任等に関する規程三条)。同決済終了により、支出負担行為兼支出命令決議書は、完結し、処務規程の定めにより事務局総務課で保管する。

(6) 出納執行命令の決済後、出張者から委任を受けた旅費受領代理人が出張者に代わって旅費を受領する。これは、旅費の受領につき、当該旅行者に代わって課長等が指定する職員が行うことが要求されているため採られる方法であり、県議会においては、事務局総務課経理係長が旅費受領代理人に指定されている。受領は、具体的には、旅費出納員が電算システムを使用して旅費受領代理人の口座に旅費相当額を振り込み、旅費受領代理人が、同口座から現金を引き落として、出張者本人に交付して行う。なお、交付を受けた出張者本人は、所属長又は事務局総務課長のもとに返還された旅行命令(依頼)票に、受領月日・印欄に受領月日等を記入する。これをもって、旅行命令(依頼)票は、完結し、事務局総務課において保管される。

(7) 事務局職員は、出張から帰庁したときは、議長に対し、文書又は口頭で復命する旨の規定がある。復命が書面で行われる場合、同署面は、事務局の各課に保管されるほか、その写しが事務局総務課に送付される。議員については、復命の規定はない。

(8) 以上のとおり、議会の出張事務において作成される文書としては、旅行命令(依頼)票、支出負担行為兼旅費支出命令決議書、旅費受領代理人普通預金通帳及び復命書が存在すると認められるところ、旅行命令(依頼)票には、年度、旅行命令票番号、旅行命令日、執行機関名、旅費受領代理人名、支給額合計、返納額、差引額、精算確認年月日印、旅行命令番号、旅行者氏名、級(旅費級コード)、旅行期間、旅行内容、附記事項、出発地、目的地、泊数、使用交通手段、帰着地あるいは帰省地、支給額(旅費額)、受領月日、受領印等が、記載されている。また、支出負担行為兼旅費支出命令決議書には、予算区分、執行機関、旅費受領代理人、年度、決議番号、支出負担行為日、支出命令日、支払希望日、支出命令確認日、支払日、金額、支出区分・支払方法、旅行命令票番号、旅費額、残額が記載される。

(二)  県警本部総務課職員の出張に係る事務について

(1) 県警本部総務課の職員の出張(旅行)については、県警本部総務室総務課長が、旅行命令権者となり、旅行命令内容を意思決定する。

(2) (1)の意思決定に基づき、庶務担当者が、旅行命令(依頼)票を作成し、旅行命令権者は、同票の内容を確認してこれを決済し、出張者は、同票により旅行内容を確認し、同票に各認印を押捺する。

(3) 旅費の請求は、県警本部総務課長が指定する職員である庶務担当者が、出張者か旅費請求についての委任を受け、出張者に代わって行う。具体的には、県警本部総務室会計課課長補佐が、出張者本人からの委任を前提として旅費請求代理人となり、旅行命令(依頼)票に設けられている請求代理人請求印欄に押印して請求する。

(4) (3)の請求に対する支出命令は、庶務担当者が、旅行命令(依頼)票の内容に基づき、支出負担行為兼旅費支出命令決議書を作成したうえで、支出命令権者が、決済して行う。支出命令は、被告の職務権限であるが、被告は、県公安委員会が管理する県警本部の警察本部長に、県公安委員会が配当を受けた歳出予算の執行に関することを補助執行させている(教育委員会等への事務の委任及び補助執行に関する規則五条一項二号)ところ、宮城県警察の事務の専決及び代決に関する訓令五条により、県警総務室会計課長に支出命令についての専決権が与えられ、同人が、支出負担行為兼旅費支出命令決議書の決済欄に押印して、支出命令を行っている。

(5) 支出命令に基づき出納執行命令の決済がなされるが、県警本部においては、出納長の権限に属する事務を補助する出納員たる県警本部会計課長の委任を受けた旅費出納員としての総務室会計課管理官が、旅行命令(依頼)票と支出負担行為兼旅費支出命令決議書の内容を審査し、支出負担行為兼旅費支出命令決議書の旅費出納印欄に押印して支出執行の決済を行う。同決済の終了により、支出負担行為兼支出命令決議書は完結し、総務室会計課が、これを保管する(文書取扱規定三〇条一項、三四条一項)。

(6) 出納執行命令の決済後、県警本部総務課長により指定された職員である旅費受領代理人は、出張者から委任を受け、旅費を受領する。県警本部総務課では、庶務担当者を旅費受領代理人に指定している。旅費の受領は、具体的には、旅費出納員が電算システムを使用して右受領代理人の普通預金口座に旅費相当額を振り込み、総務課長が指定した受領代理人が出張者に交付して行われる。交付を受けた出張者本人は、旅行命令(依頼)票の右端の受領月日・印欄に受領月日の記載等をする。これにより、旅行命令(依頼)票は完結し、県警本部総務室総務課が保管する(文書取扱規程三〇条一項、三四条一項)。

(7) 出張者は、帰庁した場合、総務室総務課長に対し、口頭又は文書で復命する。文書により復命した場合は、復命書の写しを総務室会計課長に送付し、同課でこれを保管する(文書取扱規程三〇条一項、三四条一項)。

(8) 以上によれば、警察本部総務課職員の出張に係る事務において作成される文書としては、旅行命令(依頼)票、支出負担行為兼旅費支出命令決議書、旅費受領代理人普通預金通帳及び復命書が認められるところ、旅行命令(依頼)票及び支出負担行為兼旅費支出命令決議書に記載すべき事項は、(一)(8)と同じである。

(三)  県議会各会派に対する県政調査費交付事務について

(1) 県政調査費交付に関する事務は、歳出予算の執行に関する事務であることから、被告が、事務局長に補助執行させている(議会に係る財務事務の補助執行に関する規程)。

(2) 県政調査費の交付を受ける議会各会派の代表者は、会派所属議員名簿を添えて県政調査費交付申請書と経理責任者の届出書を事務局総務課に提出する。

(3) 事務局総務課職員は、右交付申請書及び経理責任者の届出書の内容を審査し、回議用紙により県政調査費の交付についての施行伺い及び経理責任者の届出書受理の文書を作成する。これらの文書は、事務局長が決済し、これにより県政調査費交付申請書及び経理責任者の届出書が総務課において受理され、県政調査費の交付が決定される。また、経理責任者の届出書受理についての文書は、この決定により完結し、事務局総務課において当該年度終了後五年間保管される。

(4) 県政調査費の交付決定がなされたときは、支出負担行為決議書が作成される。

(5) 県政調査費は、半期毎に交付されるところ、右交付は、各会派の代表者から、県政調査費についての請求書が提出され、支出命令者が支出命令を行うことにより行われる。具体的には、県政調査費の支出命令は、議会が配当を受けた予算の執行として、事務局長が予算の執行を補助執行する(前記補助執行規程三条一項二号)ところ、事務局長は事務局総務課長に右事務を専決させる(処務規程八条二項一四号)。事務局総務課長は、支出命令決議書あるいは支出負担行為兼支出命令決議書を作成し、決済して支出命令を行う。

(6) 支出命令があった場合、当該支出命令に係る決議書に、施行伺いの文書、交付申請書及び請求書を添付し、出納執行者に回付して支出を行う。出納執行者は、知事部局出納局会計課長である。以上により支出命令決議書又は支出負担行為兼支出命令決議書は完結し、支出伺いの文書、交付申請書及び請求書は、議会事務局総務課に返還され、そこで保管される(処務規程二七条)。

(7) 会派所属議員数に異動が生じた場合、所属議員数が増加したときには、追加交付を行うが、これは、右(1)ないし(6)と同様の手続きで行われる。所属議員数が減少した場合は、返納決議書及び返納通知書が作成され、返納通知書は、会派代表者に送付される。返納の決定があった場合、事務局総務課長は、返納決議書に施行伺いの文書を添付して出納執行者である知事部局出納局会計課長に回付し、同人が決済を行う。右決済により返納決議書は完結し、施行伺いの文書は、返納決議書の控えと共に、返還を受けた議会事務局総務課で保管される(処務規程二七条)。

(8) 各会派代表者は、交付を受けた県政調査費につき、収支決算書を事務局総務課に提出する。事務局長は、回議用紙により作成された収支決算書受理の文書を決裁し、(処務規程七条一七号)、これにより収支決算書は、受理され、事務局総務課において保管される(同規程二七条)。

(9) 以上によれば、県議会各会派に対する県政調査費交付事務に関して作成される文書としては、県政調査費交付申請書、会派所属議員名簿、経理責任者届出書、交付施行伺い、支出負担行為決議書、請求書、支出命令決議書、返納決議書、返納通知書及び収支決算書があると認められる。

3  そこで、②ないし④の文書が、県条例にいう「公文書」に当たるか否かにつき検討するに、同条例二条二項は、右公文書とは、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライドフィルム(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)であって、決裁、供覧等の事務手続が終了し、実施機関において管理しているものをいう。」と規程しており、これによれば、右公文書に当たるためには、(ア)実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であること、(イ)当該文書等につき、決裁、供覧等の事務手続きが終了していること、(ウ)実施機関が管理していること、の三つの要件を充足することが必要である。

県議会及び県公安委員会が、県条例二条一項の実施機関に含まれていないことは明らかであるが、原告は、歳出予算の執行は、議会や公安委員会に係るものについても被告に専属しているところ、②ないし④の文書は、知事部局に併任された職員によって、その補助執行として作成、取得されるものであるから、被告が職務上作成、取得した文書であり、また、文書の管理も同様に被告の補助執行としてなされているから、被告が管理する文書に当たると主張する。

たしかに、予算の調整・執行権限は被告たる知事に専属し、被告がその最終責任を負うものであり、また、前記2の認定事実からすれば、県議会事務局あるいは県警本部の予算執行に関する事務も、県議会事務局及び県警本部の職員が、知事部局の職員に併任された立場において、被告を補助執行して処理されるものであることが明らかであるが、このように、県議会事務局あるいは県警本部の予算執行に関する事務についても、被告の権限が及ぶことと、被告がこれらの事務につき作成される文書について、県条例にいう実施機関としての立場に立つか否かは別個の問題であるといわざるを得ない。すなわち、県条例二条が、開示の主体を、被告たる知事のほか、公営企業管理者、各種委員会等の各実施機関として、これらが開示・非開示についての独立の判断権者となることを予定し、また、開示の対象となる公文書の要件として、実施機関の職員が職務上作成、取得していることに加え、実施機関において管理している文書であることを要求しているのは、開示をするか否かの判断を、当該文書の作成、取得に関与し、かつ、その文書を現実に保管、保存する機関に行わせることによって、対象文書の記載内容が県条例所定の非開示事由に該当するか否かの判断及び不服申立て等への対応を遅滞なく、かつ、的確になさしめるという趣旨に出たものと解すべきであるから、同条例二条二項にいう、文書の作成や管理の意義を、具体的な担当部署における文書の作成・取得過程及び現実の保管・保存状況を離れ、その本来的な作成権限あるいは一般的な指揮監督権限の帰属という観点から理解するのは失当といわざるを得ない。ことに、県条例九条六号及び七号は、当該情報を公開することにより、県の機関の行う事務事業に一定の支障が生じることを非開示事由とし、また、同条八号は、当該情報の公開により、実施機関等の議事運営に支障が生ずるおそれがあることを非開示事由としているが、これらの非開示事由に該当するか否かの判断は、当該文書の作成、取得過程に関わり、また、それを現に管理していて、その文書の内容を把握している機関においてこそ的確になしうることは明らかである。なお、前記のように、県条例二条二項は、公文書に該当するための要件として、他に、決済、供覧等の事務手続が終了していることという要件を設けているが、これも、実際に文書を作成、取得する機関が、その内部においてその文書を決済、供覧し、それが終了したのち、その文書を保管、保存するという一連の手続の流れを想定したものと理解するのが自然であり、これも、同条項にいう文書の作成や管理の意義を前記のように現実の手続に即したものと解することの根拠となるものである。

前記2の認定事実からすれば、②ないし④の文書は、いずれも県議会及び県警本部の各担当部署が作成、取得し、右各機関において、処務規定及び文書取扱規程に基づき保管、保存をしている文書であることが明らかであるし、仮に、その一部に、被告が予算執行に関する職務上、作成、取得したとみられる文書があるとしても、それを被告が管理しているとは認め難いから、右各文書は、県条例二条二項にいう公文書には該当しないというべきである。なお、原告は、これらの予算執行に関する文書についても、実施機関としての知事の指揮監督権が及ぶ以上、被告が管理権を有すると主張するが、前述のような管理の意義に照らし、採用し難い。

したがって、情報公開条例のあり方として、議会および公安委員会を一律に実施機関から除外することの適否については、立法論として十分検討されるべき問題があるにしても、現行の県条例と文書の管理状況を前提とする限り、②ないし④の文書の開示請求については、その判断の前提となる県条例所定の公文書が存在しないというべきであり、これを非開示とする趣旨の②ないし④の処分は適法であるといわざるを得ない。なお、右各処分を被告主張のように、対象文書の不存在を理由とする不受理処分とみても、右公文書が存在しない以上、それが適法であることは明らかである。

四  結論

よって、①の処分の取り消しを求める原告の請求は、理由があるから認容し、その余の請求は、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官及川憲夫 裁判官佐藤道明 裁判官山崎克人)

別紙文書目録①〜④<省略>

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